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1.幽霊
「寮長、寮長!首吊りだ!早く来てくれ!」
まだ、朝の四時を回った頃であった。血相を変えて入ってきたのは、一回生の宮下であった。
「どこだ。」
「一階の便所だ。」
「誰だ。!」
「や、山口先輩。」
「何だと、本当か!」
一階の便所は、寮の北側の一番端にあり、この便所だけ独立した建物になっていた。木造である。まだ水洗にはなっていなくて、昔のままのトイレであった。コンクリートの床に板で作った幅一メートル程の桟があり、右に大便用の個室が五つ並んでいた。左は、単にコンクリートの壁があって、小便は下に掘った溝を流れていく構造の代物で、隣に立つと、お互いの物が見えるので、自信のない者は別の階に行って用をたすこととなる。大便用の個室の戸は木製で、鍵は内側からかける。鍵は簡単な金具であったが、時々錆びていて戻らないことがあった。すると、寮生は大声を上げて助けを求めるのであるが、外からはどうすることも出来ない。そこで、ドアの上によじ登って出なければならないのである。であるからして、剛の者は、最初から戸を開けて用をたしていた。今では信じられない話である。夜になると、明りは小さな蛍光灯だけで、とても大便用の個室に戸を閉めては入れない。それでも、勇気のある者は入っていたのである。
さて、この日、一回生の宮下が朝方から下腹が痛くなって便所へ行ったのである。一番奥の鍵が最近付け替えたので、間違いがないことを知っていたのでこの個室で用をたそうと思い、ドアを引くのであるが、開かない。誰かこんな早朝から入っているのである。しかたがないので、その隣で用をたしてすっきりして出て来たが、前の個室には誰もいる様子がないのである。なぜ鍵がかかっているのかと不審に思い、ドアによじ登って見ると、上に紐が見えて、誰かがぶら下がっているではないか。これは大変だと、体当りをしてドアを破って見ると、山口先輩が下がっていたという訳である。
「山口先輩、なぜだ・・・・」
寮長はしばらく床の上に座ったまま動けなかった。
「寮長、寮長、何とかしなければ。」
宮下が震えながら言った。
「そうだな、宮下その辺の部屋から何人か起こしてきてくれ。」
「わかった。」
「なんだよ、こんな朝早くから。」
何事が起こったのかと、二人ほどがパジャマ姿でやってきて、首の伸びた死体を見て棒立ちになった。
「降ろすから手伝ってくれ。」
二人掛かりで死体を持ち上げ、一人がロープをはづす事になったのであるが、何せ狭い便所の中であるうえに、下に穴まで開いているから、大変な作業であった。ようやく、死体を床の上に横たえる事が出来たのである。
「寮長どうする。」
「とにかく警察に連絡をとって、任せるしかないだろう。」
「そうだな。しかし、先輩は何でこんな所で首を吊らなければならなかったのだろう。」
「よほどの理由があったのだろう。寮生がむやみに騒ぐのはまずい。宮下、何か紙を持ってきて、使用禁止の貼紙を入り口に貼っておいてくれ。誰もここへ入れないでおこう。」
「よし、鍵も探してくる。」
遺体はなるべく動かさない方がいいということで、このままにして、事務所からテーブルに掛ける白い布を捜してきて、かぶせておいたのである。
連絡をすると、警察が来て、死体を運んでいった。寮長が死体に付き添っていった。
時は昭和四十四年である。日本は東京オリンピックを境にして、高度経済成長期に入っていた。これはそんな頃の話である。地方の大学においては、古きよき時代の面影が少しばかり残っていた。そんな大学の学生寮に青春を過ごした若者達の、可笑しくも悲しい物語である。
村岡誠二、二十三才。山岡大学工学部一回生。神奈川県出身。身長百八十センチ、体重九十五キロ。巨漢である。子供の頃から喧嘩が強く、付近の子供のガキ大将をして、三つ程年上の子供までを子分にしていた。中学に入って、体が大きいので柔道部に誘われ入部。この時すでに三年生よりも大きく、練習試合で、三年生の黒帯の部長を寝技に持ち込んで首を絞め、気絶させた。もう少しのところで死ぬところだった。手加減しろ、と先生に叱られて退部する。十七才の時、航空自衛隊のF一◯四ジェット戦闘機のパイロットであった父が、太平洋上空で墜落、殉死した。原因は今だにわからない。大学進学を諦め、体が大きかったこともあって、建設会社に入社。一年ほど勤めたが、酒を飲んだ勢いで土木作業員と喧嘩、五人を気絶させて首になる。今度は、長距離トラックの運転手の助手として、ある運送会社に入社。翌年には運転免許を取得して、東京、北海道の長距離大型トラックに乗り込む。都内を走行中、暴走族に絡まれ、十人中、八人を骨折などの重傷を負わせて逮捕される。引き取りに来た母親はには何も言えなかった。
「誠二、お前はもともと頭がいいから、もう一度勉強してきなさい。家のことは、死んだ父さんのお金がありますから、どうにかなります。学問がないばっかりに、すぐに暴力に走るのです。明日から勉強して、どこぞの大学に入りなさい。そして、あなたに合った職業を身に付けなさい。」
そんなわけで、四年ぶりに勉強を始めたが、費用の安い国立大学で、入れそうなところが近くに無い。北陸の僻地に入れそうな所があったので、そこを受けた。
大学の寮に入ると、四回生よりは一つ年上であった。体もばかでかい。入学式の前日にキャバレーで暴力事件を起こすような、こんな手の付けられない奴を野放しにしておくと、何をやらかすかわからない。四回生が思案の挙句、たまたま寮長のなり手がなかった事もあって、寮長にしておけば少しはおとなしくするであろう、と言う事になり、無理やりに寮長にしてしまったのである。
もちろんこれだけの体がある訳であるから、各部が黙っている訳がない。同室になった四回生がラクビー部のキャプテンであったことから、断われずに入部する。初日の練習で、寮長にボールが回ってきた。ボールを持って突進する。寄ってたかってタックルをするが、全く通用しない。そのままゴールである。あまりの呆気なさに、その日のうちに退部する。
この事件の起きたのは、この年の十月の事であった。警察署に入ると、木下署長が出てきた。
「村岡、お前又何かやらかしたのか。」
「いいえ、署長に迷惑をかけるようなことはもうしませんよ。今日は寮の先輩が自殺しましたので、その付き添いです。」
木下署長とは少々懇意であった。入学式の前日、この街の盛り場である新街のキャバレーで飲んでいた時、酔った客六人に絡まれている店の女の子を助けたことがあった。少々酔っていたので、ブレーキが効かなかった。三人を半殺しの目に合わせて、警察に連行された。この時に木下署長に会ったのである。この時は、相手が告訴をしなかったので、始末書だけで事がすんだのである。しかし、こんな狂暴な奴を野放しにしておいて、暴力団の幹部にでもなられたら、警察も手が付けられない。そう思った木下署長は、
「村岡、明日の夜時間を開けてくれ。話がある。お前のシマでいいから。」
そんな訳で、例のキャバレー飛鳥で木下署長と会ったのである。話は近くにある競輪場のアルバイト学生の手配師の仕事を引き受けてもらいたいということであった。この競輪場は、県営であったが、警備は警察署が受け持っていた。目の届くところに置いておこうという訳である。
さて、山口先輩の自殺に不審なところが無いということで、引き取っていいという。夕方になって、山陰の片田舎から、両親と兄の三人が車で八時間かけてやってきた。母親は変り果てた息子の遺体にすがるようにして泣いた。父親と兄はうつむいたままこらえているようであった。
「寮長さん、いろいろお世話になりました。何で息子は自殺なんかしたのでしょうか。」
父親が寮長に尋ねた。
「突然の事で私にもわかりません。何かわかりましたなら、後日ご連絡いたします。山口先輩の遺品は、後程送ります。」
「そうですか、それでは何分によろしくお願いします。」
「御遺体の搬送は、専用車を手配しましょうか。」
係員が尋ねた。
「いいえ、息子は私が抱いて帰ります。」
母親が言った。
暗くなった警察署を四人は出て行った。山口先輩の兄は、これから又八時間の運転である。寮長は、警察署の前で車の姿が見えなくなるまで見送っていた。夜空に、いやに明るい満月が出ていた。
「あの便所は山口先輩のために、当分の間使用禁止にしておこう。仏さんになった先輩の場所で、用をたすのは失礼だろう。ところで、死んだ山口先輩の同室は、二回生の田中先輩だったな。」
部屋に入ると、山口先輩の机の上に小さな花が飾られていた。
「田中先輩、山口先輩の両親に報告しなければならないのですが、自殺の原因について何か知っていませんか。」
「俺にもよくわからないが、ここ最近何かに悩んでいる様子だった。夜はほとんどふるさとに入り浸たりで、毎晩酔っ払って帰ってきた。」
ふるさととは、寮生が通っているおでん屋のことである。
「何かとは、女でしょうか。」
「そんな噂があったが、はっきりとしたことはわからない。」
程なくして、相手がわかった。寮長も顔見知りのA子であった。A子が寮に尋ねて来たのである。
「村岡さん。山口君が自殺した場所に、お花とお線香をあげさせてもらえませんか。」
「山口先輩が自殺した原因に君が関係しているのか。」
「うん、私のせいで山口君は自殺したのだと思う。私、とんでもないことをしたと後悔しています。こんな事になるんだったら・・・・・」
「山口先輩と君との間にどんな事があったのか知らないが、山口先輩はもう死んでしまった。何を言っても仕方のないことだ。しかし、理由はどうあれ、君がそうしたいと言うならば、気の済むようにしてやってもらいたい。」
A子を鍵のかかった便所へと案内する。
「こんな所であの人は死んだのですか。」
「そうだ、あの鴨居にぶら下がっていた。」
A子は、無念でしょうがないという風に、床に崩れて、手を顔に当てて泣いた。
A子は、かつて色街であった新街のキャバレー銀河のホステスをしていた。東北出身の、小柄で丸顔の女性で、美人というよりは、愛らしいタイプであった。子供の頃に両親を無くし、親戚に引きとられたが、高校は出せないということで、集団就職によってこの街に来たのである。
五年ほどある織物会社で働いていたのであるが、その会社の社長の息子に目を付けられ、ドライブに誘われ、車の中で無理やり関係を迫られたのである。当時車を持っている若者は珍しく、A子もついつい車に乗ってみたくて、誘いにのったのである。
「俺はずっと前から君の事が好きだった。一緒になれば、楽をさせてやるから、俺の言うことを聞いてくれ。」
かなり遊んでいることは知っていたので、そんな口車には乗る訳にはゆかなかった。腕に噛みついて難を逃れたA子は、裸足で車から逃げた。そして、桜橋の所まで来て、この後どうしようかと思って橋の上から水面を見ていた時に、偶然山口先輩が通りかかったのである。ただ事ではない雰囲気に声を掛けて来たのが出会いであった。
山口先輩は、山陰の貧農の長男であったが、少しばかり勉強が出来たので、大学へ進学する決心をしたのである。しかし、近くにあった一次の国立大学の受験に失敗し、かなり離れてはいたが、二次のこの大学まで来たのであった。
山口先輩の知り合いは、この街ではおでん屋のふるさとのママさんぐらいであった。さっそく、ママに相談したが、おでん屋で彼女を雇うほどの余裕はなかった。そこで、ママの知り合いのキャバレー銀河のマダムに相談することになったのである。こんな水商売でよければ、アパートも世話をするということで、とりあえず世話になることになったのである。
話が決まれば、もうどら息子の会社には用はない。友人に親父が商店をしている者がいたので、ライトバンを借りて引っ越しをすることにした。昨日の今日の事である。社長が飛び出してきて、A子の前に立ちふさがった。
「何が不足でいきなりやめるんだ。」
「社長、貴方の最低の息子に聞いてみれば。」
そう吐き捨てるように言って、A子と山口先輩はその会社の寮を後にした。こんな事があって、二人の仲は急速に発展したのであった。
キャバレー銀河は、新街では中堅の店であった。近くに競輪場があって、そこには多勢の学生アルバイトがいた。アルバイトの金が入ると、寮生の中には、新街のキャバレーへ出かける者もいた。寮長も、たまにキャバレー銀河に顔を出してはいたが、好みの女性がいなかったので、もっぱら飛鳥というキャバレーに通っていた。例のキャバレーである。しかし、A子の事はよく知っていた。キャバレー飛鳥のB子が寮長の好みであった。そのB子とA子が同じアパートに住んでいたので、友達になった。そんな訳で寮長はA子を紹介され、時々気が向くとキャバレー銀河にも顔を出すようになったのである。
山口先輩は、奨学金だけではやっていけないというので、寮長の世話で、競輪場でアルバイトをするようになった。真面目だけが取り柄の男で、家庭教師の方がいいのではと言ったのであるが、時間が夜なので、だめだと言う。どうしても昼の仕事がしたいと言うのであった。昼の仕事は、もちろん学校をサボって来る訳であるから、「代返」という、出席を教授がとる時に、別人が返事をするというふざけたことをしなければならない。もちろん、お返しに相手の「代返」もしなければならないから、この覚悟がいる。中には、三、四人の代返をする者までいる。声の調子を変えないとばれると思って、変な声を出すと、クラス中が大笑いとなる。教授もそんな事はわかっている。今にして思えば、夜にA子に会いに行かなくてはならないから、かなり無理をしてこのアルバイトを選んだのである。
山口先輩は、寮長よりは二つ年下であったが、寮長とは性格が正反対であった。その事がかえって仲を良くしたのである。山口先輩は、難しい哲学書をよく読んでいた。そのために、寮長の知らない世界のことをよく語ってくれた。寮長はまた山口先輩の知らない世間の話などをして、二人はよく飲みに行ったのである。喧嘩腰で議論をして、徹夜することも度々あった。寮生活はこの様にして、お互いの持っているものを知らず知らずのうちに吸収して、急速に成長するのであった。
「山口君は、私が銀河のホステスになってから、アルバイトのお金が入ると必ず飲みに来ました。自然の成り行きで、私のアパートで、彼と関係を持つようになったのです。私も、山口君も初めてでした。どうしようもないくらい、私も山口君を好きになりました。しかし、ある時気が付いたのです。あの人は、私がいないと勉強が手につかなくなったのです。こんな私と付き合っていると、学校も卒業出来なくなると。山口君を不幸にする女にはなりたくなかったのです。そこで、彼と別れなければならないと覚悟し、冷たくあしらうようにしました。ところが、以前にもまして銀河に通って来るようになったのです。」
「そう言えば、そんな頃俺にバイトの回数を増やしてくれと言ってきた。金がいったのは、そんな事だったのか。」
「私は、アパートを移ったのですが、そこも見つかってしまい、再びそこで関係を持つようになりました。ところが、私に再び逃げられると心配して、ここで私と同棲することを迫ったのです。私は、山口君がだんだん純粋さを失って、私の体だけを求めているような気がしてきたのです。私はこんな山口君でも好きでした。しかし、山口君は学生であることを忘れて、私という女にのめり込んでいくのがよくわかったのです。山口君のために、私は身を引いたほうがいいと決心し、ママの知り合いの暴力団の梶山さんに頼んで一芝居うったのです。」
どのような芝居なのか、おおよそ見当は付く。そのショックで、山口先輩は自殺したのであろう。しかし、今は誰を責めても山口先輩は帰ってこないのである。
寮長は、A子の話を聞き終わると、立ち上がって窓の外を見た。目に光るものをA子に見られまいと、後ろ向きになったのである。
「それで、君はこれからどうするんだ。」
「秋田へ帰ろうかと思います。この街にいると、山口君のことが忘れられ無くて辛い。」
「秋田には、つてでもあるのか。」
「いいえ、でも何とかなります。」
「そうか、では元気で。」
A子とはそれ以来会うことはなかった。
そんな事件があって、半年程たった。もちろんかの便所の使用禁止は解除となっていた。ところが、便所に幽霊が出るという噂が広まったのである。副寮長の金田先輩がやってきた。
「寮長、幽霊の噂知ってるか。」
「ああ、宮下から聞きました。」
「実際に見たと言うのは、一階の十号室の谷口だ。夜中に用をたすために便所に行くと、誰か後ろに立っている気配がして、振り向くと、山口が立っていたという。」
「谷口はその後どうしていますか。」
「あまりの恐怖で気が少し変になりかかったが、今日は少し平静さを取り戻しているという。しかし、あいつはもう寮では住めんかもしれん。」
「山口先輩が自殺したので、先輩の幽霊が出るのではないかという先入観があるから、そんな幻想を見るのではないでしょうか。」
「そうかもしれん、しかし、実際に見たと言う谷口の、あのおびえた姿を見ると、本当だと思うのが普通だろう。それ以来あの便所に誰も近づかなくなったのは、困ったものだ。どうしょうか。」
「どうしましょうかって、どうしようもないでしょう。」
その夜の二時頃、座布団二枚と、一升瓶を持った寮長の姿が一階の便所にあった。便所の中央に一升瓶を置き、座布団を敷き、片方に寮長が座った。
「山口先輩、出てきてください。一緒に飲みましょう。先輩の無念さはよくわかります。A子さんは実にいい女でした。先輩の嫁さんには最適の女でした。」
向かいの座布団が一、二滴の水滴で濡れる。寮長が、持ってきたコップに酒をついで向かい側に置く。
「さあ先輩、飲んでください。話はA子さんから聞きました。先輩も辛かったでしょうが、A子さんはもっと辛かったのです。学生である先輩が、キャバレーに出入りして、勉強と両立できるほど器用な人間であったならばよかったのですが、会えない時は勉強に身が入らない事を知ったA子さんは、先輩のために別れる決心をしたのです。そこのところをわかってやってください。自分には、本気で惚れた女もいなければ、惚れられたこともありません。こんな偉そうな事を言える立場ではないのですが。一生そんな女に巡り会うことがないかもしれません。ほんのわずかの時間でしたが、本気になってくれた女が先輩にいたことを、自分は羨ましく思います。」
向かいのコップが少し揺れた。
「さあ、もう一杯飲んで下さい、山口先輩。自分は最初先輩が女の事で死んだと聞いた時、たかが女の事で死ぬなんてと思いましたが、A子さんに会って、その考えが変わりました。今の自分にこれだけの思いを持ってくれる女がいたなら、死んでもいいと本気で思いました。先輩は素晴しい女を持ったんです。先輩の短かったが、素晴しい人生に乾杯。」
再び前の座布団に水滴が落ちた。コップも揺れた。
「先輩。お別れです。安らかに冥土に旅立ってください。先輩の旅立ちに当たり、僭越ですが、村岡誠二寮歌でもってエールを送らせていただきます。アイン、ツバイ、ドライ。」
白き峰 遠くに望む
我らが館 若人の
ああ、青春の・・・・・
集うところぞ 美しく
・・・・・・・・・・・
寮長の顔は涙でくちゃくちゃになって、歌が声にならない。
「寮長、寮長。こんな所に寝て何をしているのですか。」
便所の中央に横になって寝ていた寮長がいた。空になった一升瓶がその横に転がっていた。向かいの座布団の前のコップも空になっていた。
「山口先輩は帰ったか。」
「山口先輩?やはり出たのですか。」
「そういえば、もう来ないと言っとったな。」
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